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インタビュー

株式会社センプレデザイン代表 田村昌紀さん

「心地よい暮らし」をコンセプトに、海外の家具や洗練された雑貨が並ぶセレクトショップ「SEMPRE(センプレ)」。現在、路面店が2店舗、百貨店やショッピングビルのインショップが4店舗あり、インテリア好きなら誰もが知る存在に。2015年10月、青山・骨董通りの「センプレ青山店」を大幅にリニューアル。センプレの代表的アイテムであるアルテックなど世界のデザイン家具はそのままに、若手クリエイターのプロダクトを導入。どんな基準で新たなアイテムをセレクトし、どんなこだわりで新しい空間を作り上げたのか、代表の田村昌紀氏にお話を伺いました。 Photographs by Nobuhiko Tamura

――青山店のリニューアルの経緯を教えてください。

田村 青山店のリニューアルの前に、2010年に池尻大橋に「センプレ本店」を新設したという経緯があります。大橋ジャンクションを含む一帯の再開発の流れで、店舗をつくることになり、246号から空中庭園がつながった3階建ての大型店となりました。

青山店のリニューアルはそれに伴うもので、青山店に付随していた本店・本社機能を池尻に移し、店舗は2階建てからワンフロアに縮小。池尻大橋が一歩暮らしに踏み込んだエリアなことに対し、青山店は都心部らしい発信型のアンテナショップということを軸にリニューアルを進めていきました。

――今回のリニューアルで大事にしたことはなんですか?

田村 1999年の青山店の開業当時、インテリアショップは家具なら家具、食器なら食器とカテゴリー別に分かれたお店しかありませんでした。そこで、家具や雑貨を分断せずひとつの世界観で表現する「ライフスタイルショップ」としてスタートしたのが青山店です。が、16年もの歳月が経ち、良くも悪くも、あらゆるものが混沌と蓄積されてしまっていた状態だったんですね。これをどうにか整理したいという思いが長年あり、リニューアルを機にそれらを一度整理して原点に立ち返ろう、「心地よい暮らし」とは何かをあらためて見つめ直そうと考えました。

そこで大事にしたのが「空間性」です。入り口からダイニング、キッチン、リビング、書斎、バスと大きくゾーニングし、それぞれに適した家具や雑貨を配置しています。ただモノを売るのではなく、お客様に暮らしをイメージしていただけるよう、ひとつの世界観を空間全体で表現することに注力しました。

センプレらしい名作家具と若手クリエイターの食器を並べ、ダイニングのシーンを想像できる空間に。ブランドはさまざまだが統一感があり、一つの世界観を生み出している。

――店舗縮小に伴って、アイテム数を約半数と大胆にカットされたわけですが、いまお店にあるものはどのような基準でセレクトされたのでしょうか。

田村 まず長年変わらない主力商品はセンプレのオリジナル家具と、世界のデザイン家具です。たとえばアルテックやアアルトのような、何十年も基本のデザインが変わらない普遍的なもの。機能性とデザイン性を備えたもの。そこはリニューアル前から変わっていません。

そこに今回プラスしたのが、それらと同じ文脈で語れる「日本のものづくり」の視点です。たとえばKIGIの開発した食器ブランド「KIKOF(キコフ)」や、蔵前の「SyuRo(シュロ)」の商品、富山県の鋳物技術を取り入れた「NAGAE+(ナガエプリュス)」のアクセサリーような、デザインと日本の伝統工芸を組み合わせたプロダクトですね。ものづくりの姿勢に共感し、評価できる若手クリエイターのアイテムをセレクトしています。そして、彼らのような、きちんとものづくりができるクリエイターがいて、なおかつ世界に通用するまで成長しているということを、きちんとお客様に伝えることがセンプレの役目だと思っています。

これはもともとセンプレをつくった最大の理由で、ただモノを売るだけでなく、作り手の魅力をきちんと発信して流通させたいという思いがあったんですね。ですがそれは、たとえば単純に店舗を増やしてできるということではなくて、焦点をしぼってクオリティーを保ちながら発信していくことが大事になってきます。青山店では「デザインのある暮らし」を提案することで、彼らの魅力を発信していければと思っています。

クリエイターごとのコーナーをつくり、ものづくりへのこだわりや姿勢を紹介している

こうした作り手にもセレクトする我々にも想いがあるモノ。それらをきちんと伝えようとすると、どうしても商品ポップを貼ったりあれこれ飾ったりして、目立たせたくなってしまうんですよね。でも「暮らし」を前提に考えてみると、自宅では当然そんなことはしない。なので、ポップや棚下灯、スポットライトといった店舗的要素を極力排除し、シンプルな空間でできる表現を模索しました。そうしたなかで、壁が非常に重要な要素になると思ったんです。

壁紙よりも質感や表情のある塗り壁が良い。そして、やっぱり自然素材のものを取り入れたいと思ったんですね。では暮らしに適した壁材は何だろうかと探しはじめて、日本だけでなくヨーロッパでも探して調べてみると、案外、店舗などの施設向けの素材が多かったんです。

そこでナチュラルで優しい感じがして、暮らしの空間に合った素材として、シリカライムが適していると思ったんですね。素材のよさもそうですが、塗った後の質感、発色など総合的に見ても理想的でした。このメインの壁のベージュの色合いも、家具やファブリック類の素材とも相性がよく自然に溶け込みます。陰影がきれいで、前に置いた商品が引き立ちますから、ポップを貼らなくても十分ですね。

書斎ゾーンは他の壁より濃い色味のアルドワーズ/ニュアージェを塗り、落ち着いた雰囲気に。

サンプルを見て、個人的には塗り壁らしい質感をより出せる、粗めのコテ仕上げも面白いと思いましたが、それが壁面となったときに、もしかしたら店舗的要素が強くなってしまうのかなと。暮らしの空間にはそこまで「表情」はいらないと思い、あくまでナチュラルに仕上げることを優先しました。テクスチャーの展開よりも、同じ塗り方で色の展開を見せたほうが、日常に寄り添った形で空間の提案ができると思い、ゾーンによって色を変えてみました。

――取り扱うアイテムだけでなく、そういった空間作りの素材に至るまで「選ぶ」という行為を日々されていますが、常にベストなセレクトができるのには、どういった背景があるのでしょうか。

田村 ずっと常に疑問を持ったり考えて、探し続けることでしょうね。何か一つのモノをセレクトするにも、その裏には何百というモノを見た経緯がある。だからこそ、その中から「本当にこれだけは意味がある」と思えるモノに出会った瞬間、すぐに掴むことができるんです。

一朝一夕の思いつきや、ただの偶然だけでは、本当のいいモノには巡り会えないですね。

そういう情報収集は、日々のことでいうと、毎朝、新聞を隅から隅まで読むことを日課にしています。その日の最新の情報や経済状況を知らないと、一日のスタートが切れないですね。また仕事に役立つ発見やアイデアというのは、何も特殊な場所で特殊な人たちに合ったからうまれるわけではないんです。たとえばスーパーで買い物をしたり街を歩いたり、そういう日常のなかで見ている風景にこそたくさんの情報が溢れているし、そこで発見することのほうが実用的なんですよね。

――雑誌でもカタログ的に商品が載っていれば売れてしまう時代を経て、いまは雑誌でもお店でも、ライフスタイルごと提案するスタイルに変わってきていますよね。センプレが提案する「心地よい暮らし」というのは、どういうものなのでしょうか。

田村 お客様がそれを生活に取り入れて、暮らしや心が豊かになることはとても重要な要素です。たとえば雑誌などのメディアが取り入れるものは最新のトレンドだったり、プロの視点でキュレーションされるものは「面白い」モノ。それはそれでいいと思います。ですが、一般のお客様から支持されるものは、決してそれだけではないんですよね。そのバランスを見極めるのが大切で、とても難しいんですよ。

クリエイティブな視点と経営的な視点の両輪のバランスはとても意識していますね。 そして、暮らしや生活空間を大事にしようという流れができて長く経ちますが、本当の意味ではまだ実現しきれていない部分も大きいんですね。その理由は、センプレでも今よく議論するのですが、「心地よい暮らし」を提案していながらも、じゃあその提案側がそうできているかというとなかなか難しいといいますか。やっぱり世界的に見ても、日本人の労働時間は長くて、でもだからといって生産性が高いわけでもない。そういう生活が豊かな暮らし、心地よい暮らしとはなかなか言えないんです。

仕事と家庭のバランスをきちんと取れる社会になること、まずはそこからですよね。とはいえ僕自身も、自宅にもオフィススペースがありますし、どこでも仕事ができてしまう環境があるから、なかなか人のことは言えないのですが(笑)。

壁について一言

Q:田村社長にとって「壁」とは?
A:空間を構成する最大のキャンバスです。

田村 そこに何を描いて、どう表現するかで空間がきまる。でもそれは何かを貼る・置くということではなくて、光の当たり方、影の出方といった自然なものが映し出されるということ。それらも計算したうえでないと、快適な空間はつくれないと思います。

メインの大壁にラグを飾っているのは、壁を床と見立てているから。「空間を構成するうえで壁と同じくらい面積が広く、重要なのが床。この二点をどうするかで空間は決まります。床と壁を分断せず、両者をニュートラルにとらえようという表現ですね」(田村)

SEMPRE AOYAMA
(2017年5月クローズ)

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