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インタビュー

株式会社小林幹也スタジオ代表 小林幹也さん

家具やプロダクトデザイナー、インテリアデザイナーとして幅広く活躍し、国内外にクライアントを持つ小林幹也さん。その傍らで「暮らしの市場」をコンセプトにしたショールーム兼ショップ「TAIYOU no SHITA」を運営されています。そして今年1月、内装新たに目黒区碑文谷にてリニューアルオープン。そんな小林さんに、日々どんな思いでデザインをされているのか、「モノ」づくりの視点からとらえる「空間」のあり方とは何か、お話を伺いました。 Photographs by Nobuhiko Tamura

――まずショップオープンの経緯を教えてださい。

小林 もともとはデザインオフィスとして運営していて、ずっとこもって仕事をしていたのですが、そのなかでふと「何のためのデザインなのだろう」と考える時期がありまして。デザインは作ったら終わりではなくて、やっぱり誰かに使ってもらって、その人の暮らしを少しでもよくすることが目的なんです。それを実感したくて、ショップをはじめました。

――デザイナーさんがお店に立って接客すること自体あまりないことですし、チャレンジだったのかなと想像していました。

小林 実際やってみると、接客中にそのお客様の暮らしが垣間見えたりして、デザインのヒントを得ることが多かったんです。「本当に欲しいと思っている人」の声といいますか、暮らしに密着した声なので説得力はありますよね。デザインって、たとえば100人中全員が「欲しい」と納得するものを模索するより、誰か一人の主観で「欲しい」と思うものを突き詰めたほうが、じつは共感してくれる人が多いんです。結果的に、お客様との対話で方向性が明確になって、かえってデザインのスピードは上がりましたね。

――今回のリニューアルで、一番意識されたことは何ですか?

小林 ここはワンフロア44平米で、住居だと2LDKから寝室を除いたくらいの広さなのですが、ちょうどこの周辺のお客様が住まわれている間取りに近いんです。なので、まずは自宅のような雰囲気を目指しました。実際はクロス貼りの物件が多いのでしょうが、落ち着きのある自然素材を取り入れてより家らしさを提案できたらと考え、壁は塗り壁を検討しました。

そこで縁あってシリカライムと出会えたのが大きかったですね。今回は演出として天井まで塗ってみたのですが、お客様からの反応も良いので、やってよかったなと思っています。

同じ空間でも、壁と天井、面によってテクスチャーを変更。「いろんな表情を見てもらいたいということと、リノベーションの際のヒントを提供できたらという想いからです」(小林さん)

――日頃、空間づくりにおいて一番大事にされてることは何ですか?

小林 まずモノはそれだけでは成立しないですよね。反対に、空間にも絶対にモノがある。「空間」と「モノ」の関係があって、そこに「人」が入ってはじめて完結するものだと思っています。たとえば写真撮るにしても、人物不在で完結してしまうような空間はあまり好きではないので。人が馴染めるだけの余白がある、そういう空間をつくりたいとはいつも思っていますね。

全体の色は「GREGE-グレージュ-」で統一。写真のテクスチャーはS3の「CARRES-カレ-」を取り入れた。

―暮らしに寄り添った空間ということですよね。デザインされた商品も『暮らし』を意識されたモノが多いと思うのですが、そのきっかけは何ですか?

小林 僕はもともとデザイナーを目指していたわけではなくて、子どもの頃からずっとサッカーの仕事がしたかったんです。小学生のときに、あるサッカー選手のドキュメンタリーを観たのですが、ブラジルでは応援するチームの勝敗が日常の幸福度を左右するという様が描かれていたんです。たとえば身の周りで嫌なことがあっても、チームが勝てばそんなことも忘れられる。おじいちゃんもおばあちゃんも大はしゃぎ、もちろん逆も然りで。そのくらい人々の生活に影響を与える仕事をできたら最高だなと思っていたんです。

ですが高校生のときにサッカーの道を諦めて、自分のその先を考えていたときに、たまたま椅子の歴史に関する本を読んだんです。1日のなかで椅子に座っている時間ってとても長いですよね。そういう日常に寄り添った道具をデザインする職業の存在をそのときに知って。サッカーへの想いの延長で、生活や、日常の幸福度にかかわる仕事ができたらと、デザイナー志望に転向したんです。

素材を変えたり、試作を重ねて開発までに2年かかったという代表作「UKI HASHI」

――美大卒業後、デザインオフィスを経て、独立されてすぐの頃に代表作の「UKI HASHI(うきはし)」や「Tate Otama(たておたま)」を発表されましたが、キッチン周りのものが多かったのは何故ですか?

小林 当時、よく料理していたことが大きいですね。デザイナーって、そのときの環境や人間関係にデザインが影響されることって結構あるんです。周りに人がいて、その人たちのためにモノをつくろうと思うわけで、いろんなことにチャレンジしたり、いろんな出会いがすべてデザインに反映されます。架空のターゲットに向けたものよりも、自分や周辺の環境、つまり暮らしとコミュニケーションの中から得られるものの方が「本物」なので、自信を持って作れるんです。

――雑貨と家具、それぞれをデザインするときの考え方の違いはありますか?

小林 基本的には一緒です。まずアプローチは常に「空間」が先にあります。そこで使われるシーンや人、どういう時間が流れるのかを考えながら、モノに落とし込んでいきます。逆にモノだけを見てデザインすると、「形の綺麗さ」にとらわれてしまうので、いざ空間に置いたときに違和感が生まれるんです。場所に対して大きさが合っていないとか、あるいは触ったときに手に合わないとか。人って、触りやすいものを手に取ったときは「触りやすい!」とはわざわざ口にしませんが、触りにくいと「あれ?」と違和感を抱く。

どんなものであれ、デザインって気づかれにくいのですが、そういう違和感をなくすことが共通の醍醐味だと思っています。地味こそデザインなんです!

――そうやって日々デザインされていくなかで、一番嬉しい瞬間はどんなときですか?

小林 「欲しい」という一言を言われたときですね。「カッコイイ」とか「綺麗」とかじゃなくて、自分の日常に取り入れたいと思ってもらえるのが一番嬉しいです。やっぱり使ってもらうのが目的なので。

2階には小林さんがデザインしたプロダクトと、セレクトした作家モノが並ぶ。手に持っているのは、取材班が「欲しい!」を連発したイヤフォンカバー

――雑貨とかインテリアに関するものって、生活必需品ではないので、「欲しい」と思ってもらうのはとてもハードルが高いですよね。

小林 本当にそうなんです。なくても生きていけるもので、でもあると暮らしがより豊かになるので。そこをちゃんと伝えることも大事なんだと思いますね。商品写真ひとつとっても、使用シーンをイメージできるように、これでもかというくらい自然にスタイリングをしているものが多いですよね。これだけモノが溢れている時代だと、そうやってちゃんと伝えないと、なかなか購買意欲につながらないですよね。

――いまはあらかじめ目的の商品が決まっているならネットが便利ですが、何気なく来店して、偶然お気に入りの商品を発見できるのは実店舗しかできないことですよね。そこで「欲しい」って思わせるデザインの力って凄いです。

小林 あとはスタッフの力ですね。うちのスタッフはとても優秀なので(笑)

――今年で独立されて10年ですが、今後の展望を教えてください。

小林 今年は家具メーカーを立ち上げようと思っています。今までのデザインとショップ運営だけでなく、これからは自分たちのオリジナルも作っていこうと考えています。今年の秋に発表予定なので楽しみにしていてください。

壁について一言

Q:小林さんににとって「壁」とは?
A:空間を構成する最大のキャンバスです。

小林 壁って、もうそれだけで「家」という感じがしますね。空間つくるときもまず壁から考えますし、暮らしを考えるときのスタートというか、きっかけですね。壁をどう立てるか、壁をどう取るかとか。それができたらほぼ終わったと言ってもいいかもしれません。

デザイナー / ディレクター小林幹也

1981年東京都生まれ。2005年武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。 インテリアデザイン会社勤務後、MIKIYA KOBAYASHI DESIGN設立。 家具、プロダクトからインテリアデザインまで幅広く携わり、国内外のクライアントとともにデザインを提案している。 2010年ドイツのiF product design awardにて金賞、ドイツred dot award、,グッドデザイン賞、adc賞など受賞歴多数。 2011年にはショップ「TAIYOU no SHITA」をオープン。2012年 株式会社小林幹也スタジオ設立。 http://www.mikiyakobayashi.com


TAIYOU no SHITA(たいようのした)

住所)東京都目黒区碑文谷5-28-8 電話)03-6421-3925 営)13:00~19:00 休)月、火、水曜日 / 不定休あり http://taiyounoshita.jp
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