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設計機構ワークス
代表:坂口舞さん、スタッフ:清水千恵さん

神奈川と福岡を拠点に、住宅やカフェなどの設計を多数手がける設計機構ワークスの
代表・坂口舞さん。自身やスタッフの出産を機に「建築や空間が、子どものためにできることはないだろうか」と考え、保育施設の園舎改築も手がけられるようになりました。
手がけられた空間は、自然素材を使い、あたたかみのあるデザインが印象的です。空間を作る上で大事にしていること、素材へのこだわりなどを、スタッフの清水千恵さんとともにお話を伺いました。

Photographs by Takahiro Kumada(Eckepunkt)

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――ワークスさんのコンセプトを教えてください。

坂口 例えば住宅ならそこに住む人、カフェならそこでお茶を飲む人や働く人、保育施設ならそこで過ごす子どもたちや先生方。私たちの手がける建築が目指すのは、「人」と向き合い、その空間にいる人たちの気持ちや日常を豊かにすることです。その結果、「ワークスらしい空間だね」と言われることが多いです。

――その「ワークスらしさ」は、どんな試みから生まれていると思いますか?

坂口 常に、その空間で過ごす「人」の本当の要望を探りたいと思っています。そのために、住宅を手がける時は、必ず「家づくりカルテ」を作ります。平米数や予算などの現実的な話だけでは、おもしろい打合せに発展しないので、それと並行して、子どもの頃に好きだった風景や好きだった時間、住みたかった街や国などを伺うようにしています。

実現性はひとまず置いておいて、施主様の願望をとことん追求していくと、「そういえば、僕は子どもの頃は本に囲まれた暮らしに憧れていたから、やっぱり書斎は譲れないな」といった本音がはっきりしてくるんです。

保育園の改築を手がける際も同じです。園の中で子どもたちがどう過ごしたいのか、保育士の先生がどう働きたいのか、そして園長先生はどんな理想を掲げていらっしゃるのか。それぞれの視点で、それぞれの要望を探りたい。そのために、まず先生方にはアンケートを取り、要望や問題点を伺います。でも、園児はまだ自分の言葉で発せない部分が多いので、「一日観察」を実行するんですよ。

――具体的にはどんなことをされますか?

坂口 登園から閉園まで、クラスごとに一日中滞在して、子どもたちや先生方の動向をずっと観察するんです。そうすると、「子どもたちはここで窮屈そうにしているね」「トイレに並ばされているの、嫌そうだね」というふうに、子どもたちが一日のなかで不快に感じているであろう、問題点が見えてくるんです。

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保育園の設計スタート時は、スタッフ総出で一日観察したり、こどもたちへの「はじめまして」の意味をこめてワークショップしたりします。

清水 動線の悪さが問題だった場合、例えば給食の時に先生たちの準備に時間がかかり、そのあいだ子どもたちは何十分も待たされてしまいますよね。でも、どうしても待てない子はでてきてしまう。そうすると、それだけで「悪い子、できない子」というレッテルを貼られて、子どもの主体性や個性が蔑ろにされてしまうんです。そうした問題を、建築の力で解決に繋げられればいいなと思っています。

――子どもの立場で建築を考えるようになったのは、何がきっかけだったのですか?

坂口 もともと住宅をメインで手掛けていた頃も、大人より子どもが気に入ってくれたときの方が嬉しくて。やはり反応が素直なので、気に入った場所があればそこで踊ったり、全身で表現してくれたり(笑)。そんなふうに、昔から子どものための環境を作りたいという想いはあったなかで、自分の出産を機に、より本格的に考えるようになりました。

ありがたいことに、一人目の子が2歳くらいの頃に初めて保育施設の案件をいただき、仕事としてはそれが最初ですね。また、イタリアの都市「レッジョ・エミリア」の展覧会に行って感銘を受けたことも大きかったです。街ぐるみで幼児教育に力を入れていて、子どもたちの主体性や個性を大切にする考え方にとても共感しました。

清水 それからは、子どもが自分で選ぶ、自分で決めるという、子どもの主体性を尊重できるような建築プランを取り入れるようにしています。

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こどもたちがそれぞれ「やりたい!」をえらべる保育室の工夫。

子どもが大人の都合で「やらされている」という状態が、とても嫌だったんです。保育園は一日の大半を過ごす場所だから、やっぱり子どもが自分で選んで、やりたいと思ったことをやれる環境を実現したい。なので、園からの要望としてなくても、コーナー保育の空間や、保育室ではない自由な空間をさりげなく提案しています。

――子どもが過ごす空間となると、素材にもよりデリケートになると思いますが、こだわりはありますか?
坂口 やっぱり自然素材をメインに取り入れるようにしています。もともと私自身がケミカルなものにアレルギーがあり、クロスや合板など化学的な匂いが苦手だったこともあり、漆喰や天然木など自然素材を好む傾向があったんです。

以前、住宅の見学案内をしていた時に、小学生の喘息持ちの子が、「早く帰りたい」とずっと辛そうにしていたのに、自然素材でできたモデルルームに入った途端、「この家だったら住んでもいい」と言って気に入ってくれたことがあったんです。本当にわかりやすい、直球の反応でしたね。

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「もともとケミカルなものにアレルギーがあり、内装には自然素材を使うよう心掛けています」(坂口さん)

一度、予算との兼ね合いで1階を漆喰に、2階をクロスにしたことがあるんです。そうしたら、一年経ってから施主様が「2階だけ結露するのが気になる」と仰って、結局、漆喰に塗り直すことになったんです。結果的に費用も二倍かかってしまって、とても後悔しました。でもこれって、1階も2階もクロス、あるいはどちらも漆喰にしていたら気づかなかったはず。比較して初めて、自然素材の良さや特性を再認識できましたね。

――店舗の設計をされる際は、どんなことを意識されていますか?

清水 「nana’s green tea」という全国展開されているカフェの設計をさせていただいているのですが、このお店では、お米やお茶など、食材の1つ1つにとてもこだわられていて。なので、お店の内装も、できるだけ自然素材や本物の材料など、こだわっていきたいなあと考えていました。

また、このカフェの存在が、昔の茶室というか、日本の伝統や大事にしていた素材を継承する立場になったら理想的だねという話をしていたんです。
職人さんの仕事もなくなってきている時代に、簡単な方に流されるのではなくて、ずっと残していけるものを作れればみんなハッピーじゃないですか。

そんな中で、「nana’s green teaひばりが丘パルコ店」では、職人さん手作りの左官壁を使ったお店作りに挑戦させていただきました。メーカーさんと職人さんと、施工者さんと、左官材を使って「こんなことできないかなあ?」というところから始まって。よいものを作るために、みんなが知恵を出し合い、打ち合わせを重ねて、最終的に、とてもよい空間になったと思っています。

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左官材パネルの屏風が、暖かい雰囲気で迎えるナナズカフェのエントランス部分

――こうしてみんなを巻き込んで楽しんでしまうところも「ワークスらしさ」でしょうか

坂口 やっぱり自分たちが楽しくないと一生懸命になれませんし、大人も子どものように楽しんでいる時間が大事なので。相手の童心をつついて、一緒に楽しんでしまうことはあるかもしれないです(笑)。

職人さんに対してもそうですね。特に私がまだ20代だった頃は、相手は80歳近い超ベテランの大工さんで、世代と会話を超えたコミュニケーションになるわけです。「何度説明してもお前が理解しないから、模型を原寸で作ってきたぞ。本当にこれでいいのか? 普通はこうじゃないぞ!」って言われても、私は「それでいいの! いまはそれがかっこいいの!」って、言い返したり。「やり直してほしかったら、そこの資材を運ぶの手伝え」って言われて、もちろん手伝いました(笑)。

――大工さんとしても新鮮なコミュニケーションだったでしょうね。

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坂口 楽しかったと思いますよ。でも、その大工さんがもう登らないって決めた時は結構じーんときました。背が私と一緒くらいで、80歳近いのに棟上げの日とかひょいひょい登って、いったいいくつまでやるんだろうと思っていたので。段々、手刻みできる大工さんとか、特殊な仕上げできる左官さんがどんどん辞めていかれて、「弟子がいないんだよ」と仰っているのを見ると切なくなりますね。

――最近は、野宮さんのような女性の左官職人さんや、面白い若手の職人さんも増えていますね。

坂口 そうですね。福岡の保育園の外構工事の際に、全国から4人くらい若手の左官職人さんが有志で集まってくださって、手洗い場や滑り台を左官の研ぎだしの技術で作ってくれたんです。いまそういう仕事は少なくなってるから、楽しいと言われていました。

昔は「建築家」というと、どこか先生のような印象があったと思うのですが、いま私たちの世代では、「一緒に作る」タイプの人が増えている気がします。現場の方が乗ってくれると面白いですし、困難なことがあっても「できない」と諦めてしまわずに、いろんな知恵を出し合えると楽しいし、いいものができますよね。

sakansuberi2左官でしあげたすべり台や手洗い場

worksterako併設しているこどもの学び場「まちの寺子屋」では、清水さんも講師として活躍している。

壁について一言

Q:坂口さんにとって「壁」とは?

A:皮膚です。

坂口 壁って自分を包む空間の延長だと思うんですね。なので、きちんと呼吸できているかな、温度調節できているかなという、皮膚の性能と置き換えて考えます。例えば、結露で濡れた壁に触れると気持ち悪いですよね。逆に自分が汗をかいている時に壁に寄りかかると、これもペタペタして気持ち悪い。でも、自然素材の壁だと、皮膚と皮膚同士がくっついても気持ちいい。この状態が理想の壁だと思います。左官の壁はつい撫でたくなっちゃいます。

【PROFILE】

設計機構ワークス

1985年設立。戸建住宅、集合住宅の設計や店舗の内装やインテリアデザイン、保育園の設計を多数手がける。坂口さんと清水さんのいる大倉山の事務所では、敷地内にカフェ「pukutto食堂」やこどもの学び場「まちの寺子屋」を併設。子どもや親子を対象としたワークショップや企画も実施している。

http://cafeworks.com/

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株式会社センプレデザイン代表 田村昌紀さん

「心地よい暮らし」をコンセプトに、海外の家具や洗練された雑貨が並ぶセレクトショップ「SEMPRE(センプレ)」。現在、路面店が 2 店舗、百貨店やショッピングビルのインショップが 4 店舗あり、インテリア好きなら誰もが知る存在に。2015 年 10 月、青山・骨董通りの「センプレ青山店」を大幅にリニューアル。センプレの代表的アイテムであるアルテックなど世界のデザイン家具はそのままに、若手クリエイターのプロダクトを導入。どんな基準で新たなアイテムをセレクトし、どんなこだわりで新しい空間を作り上げたのか、代表の田村昌紀氏にお話を伺いました。

Photographs by Nobuhiko Tamura

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株式会社小林幹也スタジオ代表 小林幹也さん

家具やプロダクトデザイナー、インテリアデザイナーとして幅広く活躍し、国内外にクライアントを持つ小林幹也さん。その傍らで「暮らしの市場」をコンセプトにしたショールーム兼ショップ「TAIYOUno SHITA」を運営されています。そして今年1月、内装新たに目黒区碑文谷にてリニューアルオープン。そんな小林さんに、日々どんな思いでデザインをされているのか、「モノ」づくりの視点からとらえる「空間」のあり方とは何か、お話を伺いました。

Photographs by Nobuhiko Tamura(TN-Photography)

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