コラム

SLM_no1
素材を巡る旅 コラム 素材を巡る旅

素材を巡る旅
第1回「水硬性石灰に導かれた不思議な足跡、環境への意識が蘇らせた古代ローマの技術」

Txet by K.Ikeda

Share on Facebook

今は陽気で明るいイメージのイタリア人。その昔、二千年以上遡った古代ローマ人は、極めてエキセントリックで繊密な性格であったと言われている。諸国がせめぎ合う中で、気の抜けない時代背景にあった地中海地域に、ローマ人がまさに頂点へ前進し繁栄を維持し続けたのである。

ローマの街中を散策すると、ローマ帝国の建物には壮麗さに加え、他の都市では体験のできない独特の力強さを感じる。特にローマの原点とも言えるフォロ・ロマーノからパラティーノの丘を散策すると、割合と薄めのレンガが何層にも重なり合って巨大な建造物が構築されているのに気付く。ローマに残された古代の遺構を眺めていると、誰しもその壮大さに圧倒され、地域の覇者によって国力を誇示する真剣な姿勢がまさに形となっているのがわかる。

nhl-1
パラティーノの丘から望むフォロ・ロマーノ

ローマ帝国において建築分野は軍事の一部であり、堅牢な構造物の追求が同時に力強い表現と重なって見える。耐久性を追求する中で、ローマ人は水で固まる「水硬性石灰」の製造から施工までの安定した技術を確立した。水硬性石灰は18世紀の産業革命以降に注目され、現在の我々にも欠かすことのできないセメントの発明に至る。

人類の発明の歴史において、鉄に並ぶ最高峰の技術をローマ人はすでに確立していたのは驚きと言える。水硬性石灰に出会ったのは今から15年前の1999年である。最初は石灰という素材について知識もなく、石灰の製造会社を訪ねるなどして少しずつ理解を深めていった。そうこうしているうちに大学の研究員として水硬性石灰の研究開発を進める機会をいただいた。

nhl-2
レンガと水硬性石灰による構造物(フォロ・ロマーノ)

研究を進める中で、その耐久性の高さや、空気を浄化するなどの環境性能を見出すと同時に、古代まで遡るこの素材の歴史を発見しその魅力に取り憑かれた。何よりも、水硬性石灰を使うことで、建材として当たり前に配合されている合成接着剤などの化学物質を一切使うことなく壁面を構成できるのが、最も素晴らしい特性である。

誰もがこの素材の恩恵に授かることができればと願い、現在の建物に適用できるよう数多くの試作により技術開発を重ね、日本の良質な花崗岩との組み合わせにたどり着き、2013年にようやく皆が使える既調合左官材「シリカライムSシリーズ」として世に送ることができた。

nhl-3
水硬性石灰の壁面を前に

水硬性石灰との出会いはまた、日本の左官屋さんとの出会いでもあった。伝承されてきたその技術には、作業中は今でも見入ってしまう。一つ一つの鏝さばきの中で壁面がみるみるに仕上がってくる様には誰もが魅了される。左官屋さんとってもまた、水硬性石灰は未知の材料であり、ともに研究を進めてくれたことが嬉しく、有り難かった。

シリカライムの左官材には、フランス産の天然水硬性石灰に日本の良質な花崗岩(音羽晶石)が配合されるとともに、ローマ帝国由来の古代技術、日本に伝承されてきた漆喰の技術と左官屋さんの技能がエッセンスとしてブレンドされている。是非この配合を皆さまに体感していただきたい。

nhl-4
フランスのブーム社水硬性石灰工場にて

ikeda

博士(工学)
池田勝利 Katsutoshi Ikeda
いけだ・かつとし 横浜国立大学建設学科卒・同大学院博士課程(鋼構造研究室)修了、博士(工学)、専門は建築構造・材料エンジニアリング。フランスのパリで育った背景から建築分野に興味を持ち、大学院時代に構造エンジニアの道を目指す。博士課程では鋼構造を研究分野としながらも、偶然出会った「天然水硬性石灰」の優れた特性に感銘を受ける。2006年には横浜国立大学のベンチャー企業として天然水硬性石灰の販売・開発会社となるクスノキ石灰株式会社を設立、同社代表取締役社長に就任する。2009年頃より株式会社カクイチとの共同事業として現行の塗り壁材である「シリカライム」の製品化に携わり、2013年に株式会社シリカライムの同社代表取締役社長に就任、現在に至る。

過去の記事