左官のこと

左官のこと

What’s? SAKAN

美しき手仕事、匠が紡ぐ左官を知る

人々を魅了する伝統技術、左官

左官の世界は奥深い。その技術は繊細でありながら力強く、美しくさえあります。壁面に化粧を施すかのように軽やかに鏝を滑らせ、あっという間に仕上げてしまう匠の技は、日本が誇る伝統技術です。鏝がじりじりと擦れる音や、職人の真剣な眼差し、まるで身体の一部かのような見事な鏝さばき。その技術を目の当たりにしたならば、誰もが魅了されることでしょう。上の動画では、そうしたエスプリを引き継ぐ若い世代の、それも女性職人の活躍を垣間見ることができます。

このような技術を身につけるには、長年の経験と知識に基づいた見極めも必要です。業界では、一人前の左官職人になるまでに10年以上はかかると言われています。そして一生をかけた修行が続くそうです。様々な材料と道具を使い分け、現場の環境や状況に合わせて微調整していくといった、非常に繊細な作業が必要です。日頃の鍛錬と相当な場数を踏んで、ようやく一人前として認められる世界。軽やかな動作の裏には、計り知れない努力が隠されています。

左官はそれこそ深い魅力を秘めており、大きな特長は継ぎ目のないシームレスなデザインと、複雑な形状でも仕上げられる自由度の高さと言われています。さらに手仕事で丁寧に仕上げられるため、味わいと愛着の持てる空間が生まれるのも魅力です。世界にたったひとつ、自分だけの空間が手仕事で生み出される特別感は格別です。


出展:『建築知識(世界で一番やさしい左官)』原田宗亮著、2011年2月21日発行

戦後、壁材は簡易なビニールクロスが広く普及されるようになりましたが、最近では左官材が再び注目されています。その理由のひとつに、湿度調整などの機能性があります。これは素材によっても異なりますが、湿度調整―調湿と呼ばれることが多い―性能だけであれば、ほとんどの左官材が持ち合わせている機能です。室内の湿度が飽和すると、余分な水分を壁面が取り込み一定に保ってくれるというものです。 天然素材は隙間を持っているため、調湿作用が生まれます。無垢の木材や紙、布なども同様です。ビニールクロスなどでもそうした機能性を加えたものが販売されるようになってきていますが、依然として合成樹脂が使われているためか、左官材ほどの機能性の確保は難しいという研究結果が得られています。

左官材は、自由なデザイン性を楽しむだけでなく、空気環境を向上させ快適な空間を生み出すことができる素材。さらに材料内に水分を保つため火の延焼を防ぎ、無機材料は燃えても有毒ガスが発生しないため安全性が高まります。安心して暮らせる空間が叶えられます。

曲面のある壁

ゆるやかにカーブした折上げ天井の曲線や複雑な形状のニッチも、左官の技術で綺麗に施されている。 甘味茶屋七葉ルミネ立川店/設計機構ワークス横浜

継ぎ目のない壁

吹き抜けの大壁も、継ぎ目がなく雰囲気ある印象に。 (株)洞口モデルハウス


文化の源、歴史に学ぶ左官の変遷

ところで普段の生活のなかで、壁の材質について考えることはありますか。大多数の建物の内装にはビニール製の壁紙―つまりビニールクロスが使われるという現実があります。安価で手軽なビニールクロスは、今日の日本の内装壁材において、普及率9割に及ぶとも言われています。その背景には、戦後間もなくして迎えた高度経済成長や東京オリンピック開催による、莫大なホテル建設や都市開発が進んだことが要因と考えられています。大量生産が可能で、素早い施工を得意とするビニールクロスへの需要と供給がマッチし、瞬く間に一般仕様として普及しました。 しかし古代から、日本のみならず世界中で、職人が鏝を用いて壁を施す技術が親しまれてきました。日本での起源は縄文時代にまで遡り、地中海世界で見ると、その発祥はなんと紀元前4000年頃にまで遡ると考えられています。人類の文化に深く根付いた技術だと言っても過言ではありません。

近代に入り、利便性の高いビニールクロスの台頭によって、手間のかかる左官は敬遠されがちになりました。しかし先にも触れたように、最近は健康と環境の観点から左官が注目を集めています。シックハウス症候群などのアレルギー性疾患を誘発する建材の問題が顕在化し、安全で快適な空間への関心が高まっているというのも理由のひとつだと考えられます。また、施工性よりも個性を大切にした、オリジナルの家づくりへの需要が高まっているという風潮も要因でしょう。量より質という時代に移行しているように感じられます。

長い時間をかけて培われてきた伝統技術は、何にも代え難い価値があります。しかし職人の減少により、そうした伝統技術が失われる危機にあるのも事実です。そのような状況下で最近は、若い世代の左官職人の活躍も目立つようになりました。伝統技術を見事に活用した、革新的なデザインが左官に取り入れられ注目されています。 また、一般の方が自分たちで左官を楽しむDIY商材も人気があります。自分の手でつくる喜び、達成感があるという声も多く聞かれます。左官は、これまで以上に身近な存在へと姿を変えつつあるようです。

(株)シリカライムの東京ショールーム「SILICALIME SPACE」では、無料で左官指導が受けられるフリートライアルを行っている。※要予約


左官を施工する前に注意すべきこと

このように、左官で仕上げた壁は快適で特別な空間を生み出しますが、いくつか注意したい点もあります。注意点をまとめた以下の画像をご参照ください。

まず、人によって仕上がりに差が出やすいため、施工者に見本を依頼し、仕上がりを確認した方が良いでしょう。

手仕事となるため工期がかかることがあります。事前の打ち合わせや日程の確認、施工人数の確保を行うとスムーズに進めやすいと聞きます。施主の場合は、これは依頼先の業者が手配するのおが通常ですが、確認は念のため行うのをおすすめします。

材料にもよりますが、傷がつきやすい場合もあるそうです。必ずサンプルや、あればショールームで確認するのが良いでしょう。少し擦ると手に付着するようなものもあるので注意が必要。また、子供やペットがいるなどで心配な箇所があれば、腰壁を板張りやタイルにするのがおすすめです。

特に注意が必要なのは、クラック-つまりひび割れ。これが起きるか起きないかは、下地の状態が非常に重要です。下地が動くことで貼り合わせた継ぎ目から発生する可能性が高くなります。こうしたことが起きないよう、石膏ボードの場合は二重張りにして下地を動きにくくしたり、継ぎ目が起きにくい構法にしたりと事前に対策を取ることが重要だと言えます。設計段階から左官材に適した造りを考えておけば、こうした問題も起きにくく、満足のいく仕上がりとなります。

また、大地震や建物の変形、下地材の収縮、施工不良などの問題が挙げられますが、これは左官だけの問題ではなくクロス等も同様です。強度の面においては、クロスよりも左官壁の方が強いと言われています。

BEFORE 一般的なビニールクロスのお部屋。どことなく味気ない印象を与える。

AFTER 壁・天井ともにシリカライムを施工し、床を木材に。光の反射がやわらかく、上質な空間を演出している。